顎変形症

顎の変形を来す原因は不明のものから、幼児期に始まった指しゃぶりそして顎骨の成長発育期に加わった障害に至るまで、多種多様です。

1. 顎変形症とは
 

顎変形症とは、骨格的に頭蓋に対して上顎骨あるいは下顎骨が、過成長あるいは劣成長、成長方向および位置の異常によって生ずるものであり、その結果として顔面の変形と咬合不全を来したものです。

顎変形・発育異常のうち、最も多くみられるのが、上顎骨の劣成長あるいは下顎骨の過成長または前方偏位によっておこる、いわゆる下顎が出っ張った「下顎前突症」です。特に、日本人は欧米人より発症率は数倍高いと言われています。

顎変形症には、遺伝的要素が強いとは言われていますが、原因は不明です。上・下顎骨の成長のアンバランスによってなる特発性ものと、唇顎口蓋裂、巨舌症、Crouzon病などにより二次的あるいは続発的に成長発育を妨げられたことにより生ずるものがみられます。

前歯が噛み合わなくなるのを、開咬症といい、時に歯並びだけの問題ではなく顎骨の変形をも来している場合もあります。強度の開咬症では最後方の歯が1本ずつしか噛んでいないものもあります。原因としては、指しゃぶりや弄舌癖などの悪習癖、扁桃肥大や鼻疾患による口呼吸、巨舌症などがあります。

また、成長期における慢性副鼻腔炎により、上顎洞の拡大が妨げられ結果として上顎骨の劣成長を来すケースもみられます。さらに、顎骨・顎関節部の外傷・骨髄炎などの炎症・顎骨内および周囲の腫瘍によっても正常な顎発育が妨げられたりと、原因は多種多様であります。それゆえに、特に成長期における検診や治療には充分な配慮が必要となってきます。

 

2. 治療法
 

治療法は、先ずその予防から始まります。原因として言われているうち、指しゃぶりや弄舌癖などの悪習癖は小児科の先生方そしてご家庭でのご協力により予防できることかもしれません。また、扁桃肥大や鼻疾患による口呼吸や慢性副鼻腔炎なども将来的な悪影響をご説明いただき治療にかかっていただくことが重要と考えます。

 顎変形症となってしまった場合、その治療目的は、変形をなくし、咬合を改善・回復することにあります。そこで、先ず必要に応じて、咬合不全改善のための歯列矯正や歯科治療が行われます。お近くの歯科医院あるいは歯列矯正を専門としている歯科医院に是非ともコンサルトしてみて下さい。

              当科における治療の流れを紹介します。

 そこでの治療でも目的が達せられない場合、つまり骨格的ズレが大きい場合には、それに続いて、手術により顎顔面の変形を治し、咬合を改善・回復することになります。この手術は、外科的顎矯正手術と呼ばれ、その歴史は50年にもなり全世界で同じ術式が行われています。

 具体的には、症例によりレントゲン写真や歯型などの分析結果をもとに以下の手術法を選択します。

 @上顎骨切り術:LefortT・U・V型を用いた骨切り術

 A下顎骨切り術:下顎枝矢状分割術などの下顎移動術1957年に発表されて以来、最もポピュラーな顎変形症に対する手術法で、Obwegeser原法と Obwegeser-Dal pont法があります。(ちなみに、私はObwegeser-Dal pont法を主に用いている。)術後の神経麻痺が出現する危険性はありますが、比較的安全な手術で、出血量は100t以下、手術時間も2時間以内で終了します。

 B歯槽部骨切り術:ケーレ法などの下顎前方歯槽部移動術。

 Cオトガイ形成術:審美的な要素が大きい手術で下顔面(オトガイ部)の形態を改善します。

 D仮骨延長法:下肢の延長術を顎骨に応用したもので、下顎小顎症の患者に対して物理的に牽引し仮骨を形成させることにより下顎体部(下顎角部)を延長させます。これは、骨切り術と併用することにより下顎非対称症例や下顎後退症症例など、さらに応用範囲が広がっております。

 これらの手術術式を単独あるいは組み合わせて手術が行われています。強度な下顎前突症で下顎骨の後退量が多すぎる症例や上顎骨(中顔面)の劣成長がある症例などは、Le Folt T型骨切り術による上顎骨前方移動と下顎枝矢状分割術による下顎骨後退をone stageで行う上下顎同時移動術 two jaw surgery を行う場合もあります。

下顎前突症の1例
手術前
手術前の横顔
下顎が前に突出している
上下の歯は噛んでいない
受け口のかみ合わせ
下顎骨の過成長により
かみ合わせ異常となっている
手術後
突出した下顎は後退した 上下の歯はかみ合わされ
これなら、何でも食べられる
上下の顎の位置関係も正常
手術でかみ合わせ、顔そして性格まで変わった方も
手術前
手術後



3
.おわりに
 

顎変形症の方や歯列不正の方は、食事が十分にとれないとか、人前で歯を出して笑えない、笑っている写真が少ないなど、少なからず心の悩みを持っている方が少なくないのです。もちろん、食事摂取・咀嚼が不十分であれば病気がちにもなるでしょう。悩みがその人にとって大きければ胃潰瘍にもなります。いつも、伏し目がちなっていれば、暗い人と思われがちです。そのためにも、この様な悩みを持っている方々がいること、そしてそれは治ることを分かりやすく説明できるようにしてあげたいものです。

治療目的はとかく、顔貌や審美的なものにとらわれがちになり、その要求も強くはなってきていますが、本来の目的は、顎の骨の成長が過ぎたりあるいは足りなかったことによる「よくかめない」などといった障害の除去であり、話をする、何でもよく噛み食べられるといった当たり前のことができるようになることです。顎変形症の方が術後に「歯と歯が当たって、食べられるって、こんなに素晴らしいことだったんですね。」と言ってくれることが最高の喜びであります。

 
*本文は栃木保険医新聞に掲載した記事から抜粋。