シェーグレン症候群と口腔乾燥症

 最近「ドライマウス」という言葉をよく耳にする。ドライマウスの原因は、薬物、糖尿病、シェーグレン症候群、老人性萎縮、ストレスなど多彩であり、ドライマウスはう蝕や歯周疾患、舌痛など様々な障害の誘因となる。しかし、ドライマウスだけを訴えて受診する患者さんは少なく、初期の症状を見逃してしまい、病状が進行してから発見される場合も多い。

 口腔外科では直接口の中の症状を診ることから、患者さんのドライマウスの症状を早期に発見し、治療することが可能な診療科の一つである。

ドライマウスとは

  ドライマウスとは、唾液の分泌量低下や性質、性状が変化することにより起こる口腔乾燥症状であるが、原因や症状は多彩で診断・治療に苦慮することが少なくない。口腔外科領域においては、ドライマウスが誘因となるう蝕や歯周疾患、口腔粘膜炎の治療と予防を行うとともに、原因となっている疾患、薬剤、生活習慣等をよく把握し、対処することが重要である。

分類と原因

 ドライマウスの分類はまだ統一されたものがない。
以下にわれわれが考えるドライマウスの分類を説明する。

 広義のドライマウスには唾液分泌量の低下を来しているもの(唾液分泌量低下症:狭義のドライマウス)と来していないものに分けることができる。

 唾液量の低下を来していないものには、唾液の粘稠度異常症と口腔内の保湿度低下症が含まれる。
 粘稠度異常症とは唾液分泌量は正常であるが、粘稠度の異常により口腔内の「ネバネバ感」や「ザラザラ感」を訴える場合で、従来から言われている口腔異常感症とは区別する。
 保湿度低下症とは唾液分泌量は正常であるが、唾液が口腔内に留まっていないために生じる口腔内の乾燥症状である。口呼吸による口腔乾燥症状がこれに当たると考えている。

 唾液分泌量低下症には唾液分泌能低下によるものと(唾液分泌能低下症)と体液量減少によるものがある。前者にはシェーグレン症候群、SLEといった自己免疫疾患によるもの、唾液腺の炎症や腫瘍に続発するもの、放射線治療後に見られるもの、加齢やストレスによるもの、薬剤の副作用によるものが挙げられる。後者は糖尿病や尿崩症によるもの、利尿剤や発汗によるものが含まれる。

●症状

  初期には「口の中がかわく」、「口がねばねばする」などの症状を訴えるが、次第に舌のざらつき感や舌痛、義歯の装着不良、味覚異常などを訴え始める。患者さんはこの時期に最く多く来院する。
 また、ドライマウスの進行により舌乳頭の萎縮、口腔粘膜の発赤や口角炎などがみられるようになる。 さらには続発症としてう蝕や辺縁性歯周炎の増加・進行とこれらによる口臭、口腔カンジダ症などを生じる。

 シェーグレン症候群によるドライマウスも基本的には同様な症状がみられるが、これらに加えて関節痛、慢性甲状腺炎、間質性肺炎、高γグロブリン血症など全身性に症状がみられることもある。



●診断

テキスト ボックス: 表2.ドライマウス問診表
1.	口の中がかわく
2.	口がカラカラする
3.	水が飲みたい
4.	夜間におきて水を飲む
5.	乾いた物がかみづらい
6.	たべものが飲み込みづらい
7.	口の中がねばねばする
8.	口がねばって話しづらい
9.	舌が痛い
10.	舌がザラザラする
11.	味覚異常
12.	入れ歯がいれていられない

 当科においてドライマウスを疑う患者には、問診による自覚症状のチェック(表2)と他覚所見の観察、ガムテストによる唾液分泌量の測定を行う。
 自他覚所見があり、ガムテストで10ml10分以下であれば唾液分泌量低下症と診断する。また、併存疾患や内服薬をチェックし、唾液分泌能に異常があるか否かを判断する。
 自覚または他覚所見はあるがガムテストが10ml10分よりも多い場合は粘稠度異常症や保湿度異常症を考える。

 唾液分泌能低下症と診断された場合、シェーグレン症候群による症状なのか、他の原因によるのかを鑑別しなければならない。

 シェーグレン症候群の診断には1999年の厚生省改定診断基準1)を用いる。診断の項目によっては他科との連携が必要となる。






●治療

  ドライマウスの原因を特定することが、治療指針を決める上での重要なポイントであり、原疾患が明らかな場合には、その治療を最優先に行う。しかし、自己免疫疾患や腫瘍性病変、放射線治療後や加齢など根本的治療が難しい場合も少なくない。薬剤性が疑われる場合には、その薬剤の中止や変更について関連医師との連携が重要である。原疾患が難治性の場合には根治的な治療法がなく、対症療法によって症状の緩和を図ることになる。人工唾液、含嗽薬、トローチなどが用いられてきたが効果は十分でなかった。しかし、最近発売されたオーラルバランスRは比較的味がよく、持続時間も長く有効である。

 薬物療法としては、アネトールトリチオン、漢方薬、唾液腺ホルモン、塩酸セビメリンなどが用いられる。塩酸セビメリン(サリグレンR)については、次の項で当科の経験を踏まえ、詳しく紹介する。

シェーグレン症候群の治療


ドライマウスとシェーグレン症候群

 当科で唾液分泌能低下症と診断した約70%をシェーグレン症候群が占める。
シェーグレン症候群では、腺外型の症状として
関節痛、慢性甲状腺炎、間質性肺炎、高γグロブリン血症など全身性に及ぶことがあるので、他科と連携して治療していくことが必要となる。

 腺外型のシェーグレン症候群にはステロイド薬や免疫抑制剤の投与が行われるが、腺症状に対しては対症療法が主となる。従来の口腔乾燥に対する対症療法は各種含嗽剤や人工唾液、漢方製剤、唾液腺ホルモン、アネトールトリチオン等が使われていたが、とれも有効とは言い難かった。
 
 2001
9月に発売された塩酸セビメリン(サリグレンR)は唾液腺のムスカリン性アセチルコリン受容体を刺激して唾液分泌を促進する薬剤で、口腔乾燥症状の改善率も高い。

塩酸セビメリンの効果(自験例)

 シェーグレン症候群によるドライマウスと診断して、本薬剤の投与を行った51例の治療成績を紹介する。
 性別は男性
2例、女性49例で、平均年齢は65.8歳(34?84)であった。平均投与期間は22.7週(6? 37)であった。投与量は90mg/日または60mg/日とし、90mg/日例は15例、60mg/日例は36例であった。3か月以上投与を行った37例の唾液分泌量増加率は平均117.2%で、59.5%に唾液分泌量の改善がみられた。
 増加は投与後
2週ぐらいから現れ始め、46か月ぐらいまでみられた。しかし、効果が現れ始めるまでの期間は症例によりばらつきがみられた。
 自覚症状は
64.8%で改善がみられた。自覚症状の中で夜間乾燥感と舌のざらつき感は最も遅くまで残り難治性を示した。
 他覚所見は
81.8%で改善がみられた。他覚所見では舌苔と舌乳頭の萎縮が多くみられた。
 
 唾液分泌量増加率と自他覚症状改善度を合わせた有効率は
75.7%であった。

 副作用は
51例中18例、35.3%に延べ26件がみられた。26件中23件は消化器症状で特に嘔気・嘔吐は18件で最も多くにみられた。嘔気・嘔吐は投与開始直後からみられ、2週間ぐらいすると消失する傾向があった。そのため、私は投与開始直後に軽度の嘔気がみられても患者が我慢できる程度であれば継続投与を指示し、しばらくすると消失することを説明している。しかし、中等度以上副作用が出現した7例は投与を中止した。7例中4例には嘔気または嘔吐がみられ、1例には下痢と縮瞳、1例には軽度のめまいを伴うふらつき、1例には軽度の嘔気を伴う味覚異常がみられた。下痢と縮瞳がみられた1例を除く6例の症状は本薬剤の服用開始後1?2日以内に発現し、その後は2時間程度継続して消失した。これらの症状は投与中止により消失し、再燃は認められなかった。

 このため、嘔気・嘔吐の対策が必要になる。
 本薬剤による消化器症状はムスカリン受容体刺激によるものでいわゆる慣れを示すことが多い。実際に自験例においても投与開始後
2週間ぐらいすると消失する傾向がみられた。そのため初回投与量を60mgとしてムスカリン受容体刺激を抑え、1か月以上経過を観察した後に増量する試みを行った。また、各種消化器官用薬併用して嘔気・嘔吐の出現を比較した。比較は塩酸セビメリン90mg/日群(A)、塩酸セビメリン60mg/日群(B)、塩酸セビメリン60mg/+ドンペリドン(ナウゼリンR20mg/日群(C)、塩酸セビメリン60mg/+塩酸ピレンゼピン(ガストロゼピンR50mg/日群(D)、塩酸セビメリン60mg/+マレイン酸トリメブチン(セレキノンR200mg/日群(E)で行った。各群別ではA47.4%B33.3%C28.6%D13.3%E10.5%であった。
 この結果より嘔気・嘔吐の対策として初期投与量を
60mgとして慣れた後増量するか塩酸ピレンゼピンやマレイン酸トリメブチンの消化器官用薬を併用するのがよいと考えられる。しかし、塩酸ピレンゼピンは唾液分泌を抑制する作用もあるので注意を要する。

●最後に

  口腔乾燥に悩みながらも診断されず、いくつかの診療科をまわった後に当科を訪れる症例を多く経験する。また、口腔乾燥が病気の一つであるという認識がなく、症状がかなり進行してから見つけることも少なくない。シェーグレン症候群の主徴は目と口の乾燥症状であり、口腔の治療に直接かかわる歯科・口腔外科領域で早期に発見し、患者の日常生活の改善や症状の緩和など、QOLの向上に努めたい。

参考文献:

岩渕博史他:シェーグレン症候群に伴う口腔乾燥症状に対する塩酸セビメリンの効果. 日口粘膜誌 852-57, 2002.

藤林孝司他:シェーグレン症候群改訂診断基準. 厚生省特定疾患免疫疾患調査研究班, 平成10年度研究報告書:135-138,1999.

角田博之他:シェーグレン症候群患者におけるオーラルバランスR・バイオティーンgelの効果. Dental Diamond, 26158-161, 2001.