唇顎口蓋裂

1.はじめに

 

上下顎骨は、口腔・顎・顔面の形態および機能をつかさどるものの一つである。その顎骨の奇形・変形を来すものがあり、原因別にみると先天的なものと後天的なものに大別される。先天的なものの代表としては、唇顎口蓋裂(口唇・口蓋裂)患児にみられる顎口蓋裂がある。後天的なものとしては、顎骨の過成長あるいは劣成長による顎変形症である。

2.唇顎口蓋裂(口唇口蓋裂)について

口腔顎顔面領域の先天性奇形の代表的なものである。その発生頻度は、一般に日本人新生児の500600人に1人といわれている。

原因は遺伝的要因と環境的要因の両者が複雑にからみあっていると言われている。発生機序は組織癒合不全説と中胚葉欠損説がある。口唇裂の場合には未だ両者の説が言われているが、口蓋裂は後者の説が信じられている。胎生期の第二鰓弓の突起の閉鎖癒合不全により生じる。胎生5560日で、上顎突起の内側にある二次口蓋突起が閉鎖され口蓋部が形成される。ちなみに、口唇は胎生6〜7週頃、軟口蓋および口蓋垂は胎生12週頃に完成する。よって、この胎生期発育過程の間に何らかの障害をうけ、口唇口蓋裂が発生する。唇顎口蓋裂にも様々な裂型があるのは、その障害をうけた時期・部位により口唇のみのものや、軟口蓋のみのもの、片側か、両側か、完全か、不完全かというように、それぞれ種類や程度が異なってくる。そして、その障害も様々となり、治療も変わってくる

 唇顎口蓋裂にみられる障害は、美的障害、哺乳障害、言語障害、歯列不正、上顎骨劣成長(顎変形)、中耳炎などの耳疾患そして精神心理学的障害など多岐多様にわたる。そのため、これらの障害に対し、産婦人科、小児科、耳鼻科、形成外科、精神科および歯科医師。さらに、言語治療師、看護師、栄養師、ケースワーカーなどのチーム医療で取り組まなければならない。しかも出生直後から成人に至るまで一貫した治療が必要である。

 

3.治療体系

 

 一貫治療においては、計画性をもって進めていかなければならない。その計画書なるものとして、患者の年齢や治療部位そして治療内容による治療期分類を表1に示す。これにより、患児の全身および局所状態そして家庭環境により多少の変更は余儀なくされることもあるが、ほぼこの治療計画により治療が進められてゆく。正に、「障害を無くし、自立した人生を送れる」というアウトカムをもったクリティカルパスである。

 では、唇顎口蓋裂を中心として、その治療の時期別に治療の概要を解説していきます。

 

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 一貫治療においてこの時期の治療が最も大事である。これは、「ご出産おめでとうございます」となった翌日から始まる。患児をもつ母親・父親そして祖父母への患児の奇形の状態の説明そして今後の治療について話をするが、一応に動揺や落胆や不安な顔を前にして現実と将来への希望を話しすることはなかなか容易ではない。ただし、最近では胎児エコーにより出生前より口唇口蓋裂がわかることもあり、出産前から家族への精神的ケアがなされ、スムーズに治療に移行できるケースも出てきている。

治療の第一歩は哺乳障害への対策である。当科では、1997年よりHotz床を用いた治療を行っている。このHotz床とは、チューリッヒ大学の歯科矯正医Hotzが考案した口蓋床で、哺乳障害の改善と顎誘導を期待するものである。これは、生後なるべく早期(2448時間)に装着するのが望ましいと言われている。

 

片側完全口唇口蓋裂 口の中の型をとり、
作成したHotz床
Hotz床を装着し、
正常に近い哺乳が可能となる。

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 生後4?6か月(体重6s)で、口唇形成術を行う。患児が初めて受ける手術である。美的障害を改善するための最初の手術であり、かつ最も重要な手術となり、その成否によって、その後の修正手術の回数や人生をも左右すると言っても過言ではないといわれている。

 

片側完全唇裂 口唇形成術後2ヶ月。
口唇と外鼻が形成された。

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Hotz床による顎誘導の継続。

 

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 年齢は1歳半が目安だが、上顎第一乳臼歯が萌出する頃としている。この時期に口蓋裂の最初の手術が行われる。そろそろ患児にとって異物になってきたHotz床もこの手術により必要がなくなる。口蓋形成術はその破裂の状態により変わる。

 つまり、不完全口蓋裂に対しては口蓋後方移動術(いわゆるPush back法)を、そして完全口蓋裂に対しては二段階口蓋形成術の軟口蓋形成術を行う。

 完全口蓋裂に対しては、一期的に行う場合と当科で行っているように二期的に行う場合がある。それぞれ、長所短所があり、一期的の長所は言語障害がきわめて少ないこと、短所は上顎骨の劣成長を来しやすいという点が挙げられる。これが二次的顎変形症のなかに分類される。二期的の長所は上顎骨の劣成長を来しにくいこと、短所は言語障害が一期的に比べ出やすいという点が挙げられる。ただし、軟口蓋形成術が的確に行われ、その後の言語治療により、良好な鼻咽腔閉鎖と正常な構音機能が得られるといわれている。ちなみに当科では二期的手術による口蓋形成を勧めており、この時期は軟口蓋形成術期となる。

 

完全口蓋裂 Perco法T期手術。
口蓋の後方部(軟口蓋)を形成・閉鎖した。

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 軟口蓋形成後、硬口蓋形成まで。言語訓練そして刷掃指導を含めた小児歯科治療を行う。

 

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 硬口蓋形成術期である。4歳半から5歳になり、上顎骨の成長は、その45が完成されており、骨口蓋正中側への成長により口蓋破裂部の幅も狭くなっている。この時点での手術により上顎骨の成長を最小限に妨げることができ、将来的な顎変形も最小限にとどめることができる。また言語訓練的にもこの年齢での口蓋形成が必要である。

 

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 口蓋形成術後から顎発育が終了するまでは、口唇・顎・口蓋裂に対する二次手術・修正手術が行われる。また、顎裂部には顎裂部骨移植術が行われる。あわせて言語治療そして歯列矯正などの歯科治療がされる。

 

上唇の瘢痕と赤唇のズレがみられる。 上唇修正術により、
人中および口唇の形態が整った。
顎裂と
鼻口腔痩(鼻と口をつなげているアナ)がみられる。
顎裂部には腰骨(腸骨)を移植し、
痩孔は舌を貼り付けて閉鎖した。

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顎発育終了後の治療で、必要に応じて顎変形症に対する手術療法を行う。上下顎骨の前後左右の骨格的ズレが大きい場合には、手術により顎顔面の変形を治し、咬合を改善・回復することになる。

外科的顎矯正手術と呼ばれ、その歴史は50年にもなり全世界で同じ術式が行われている。手術術式には、上顎骨切り術(LefortT・U・V型を用いた骨切り術)と下顎骨切り術(下顎枝矢状分割術などの下顎移動術)があり、これらの手術術式を単独あるいは組み合わせて手術が行われる。唇顎口蓋裂術後患者の顎変形症は、主に上顎骨の前下方への上顎劣成長によるものとなる。そこで、手術法は上下顎同時移動術になることがほとんどである。ただし、通常のLe Folt T型骨切り術に比べ、上顎骨片の分離防止への工夫など手術操作が困難となる場合もある。なお、外科的顎矯正手術については次回の顎変形症で詳しく説明する。

 

4.おわりに

 

 少子化が進む我が国ではあるが、唇顎口蓋裂患児の発生率は変わらない。少子化ゆえに、家族のなかでの子供が占める割合は増している。我が子のためにという意識が高くなっているのも事実である。また、疾病に関する情報もインターネットなどにより容易に手に入れられる時代である。そのような時代背景のなか唇顎口蓋裂患児をもつ家族の要求も以前に比べ強くなっている。それとは逆に、治療途中で放置されてしまった患者も時々お会いする。それ故に、明確な目標・ゴールを持って、一貫した治療体系のもと治療が進められていくことが肝要と思われる。

 

治療期別対象年齢および治療体系
治療期 年齢 治療内容
第1期 口唇形成術前 出生直後から 父母教室、Hotzレジン床
第2期 口唇形成術 4〜6か月 一次口唇裂手術
第3期 軟口蓋形成術前 Hotzレジン床
第4期 軟口蓋形成術 1.5歳 口蓋後方移動術または二段階口蓋形成術の軟口蓋形成術
第5期 硬口蓋形成術前 言語訓練、小児歯科 
第6期 硬口蓋形成術 4.5〜5歳 二段階口蓋形成術の硬口蓋形成術
第7期 硬口蓋形成術後 口唇裂・口蓋裂の二次手術、言語治療、歯科矯正
第8期 顎発育終了後 17歳以降 口唇裂・口蓋裂の二次手術、歯科矯正、一般歯科治療

*栃木保険医新聞に掲載した記事を抜粋。

当科での、口唇口蓋裂患児の手術に関しては、東京歯科大学口腔外科講座の内山健志教授のご助力を頂いております。